【T-Startupインタビュー】「教員になってよかった」と思える世界を。テクノロジーと地域でひらく、教育業界のOSアップデートー株式会社LX DESIGN
富山県が主催するスタートアップ支援プログラム「T-Startup」。2022年の第1期に続き、今年度、3年ぶり2度目の選定を果たした株式会社LX DESIGN。
代表取締役Co-CEOの金谷智さんは、富山県高岡市出身の元小学校教諭。「学校現場を外の世界とつなぐことで、教育をアップデートしたい」という強い想いのもと、教育外部人材活用プラットフォーム「複業先生®」立ち上げ、全国へ展開してきました。前回の採択から3年。組織も事業も大きく進化を遂げた今、金谷さんは学校教育の未来をどのように描いているのか、お話を伺いました。
金谷智 氏(かなたに・さとし)
株式会社LX DESIGN代表取締役Co-CEO
富山県高岡市出身。東京学芸大学教育学部卒業後、公立小学校教諭として勤務。2018年にLX DESIGNを設立し、教育外部人材活用プラットフォーム「複業先生®」を運営。2022年、2025年の2度にわたり、富山県スタートアップ支援プログラム「T-Startup」に選定。
3年を経て、組織ビジョンのアップデートへ
―3年振り2回目となるT-Startupの選定、おめでとうございます。2022年当時と比べ、会社や事業にはどのような変化がありましたか?
金谷氏 ありがとうございます。3年前の第1期で採択いただいた時は、サービスをローンチして自治体導入を本格化させるタイミングでした。当時はフルタイムのメンバーもほとんどおらず、いわば”組織”というより、志を同じくする仲間が集まってこれから頑張っていこうという時期でしたね。
それが今では、フルタイムメンバーが8名、全体で約25名のチームになりました。個々の情熱で走るフェーズから、一つの組織として「次の10年をどうつくるか」を問い直すフェーズへ。そこが一番の大きな変化だと感じています。
ー組織の拡大に伴い、事業の広がりも感じます。
金谷氏 主力事業の「複業先生®」は、現在40以上の自治体、約350校に導入されています。私立学校では、年間1000コマ以上の授業をご発注いただくケースもあり、毎日どこかの教室で複業先生が授業をしているということが叶っています。
ただ、僕たちが目指しているのは、出前授業のマッチングにとどまりません。昨年はブランドメッセージを刷新し、役員体制も一新しました。「複業先生の会社」から、「学校経営そのものに寄り添い、伴走するパートナー」へ、役割を大きく広げているところです。
「教員になってよかった」と思える環境をつくるために
―「学校経営の伴走者」として、具体的にはどのような課題に取り組んでいるのでしょうか。
金谷氏 学校現場には、授業以外にも本当にたくさんの課題があります。教員の働き方、業務効率化、情報発信、キャリア形成など…。たとえば、学級通信を自動生成するツールの開発や、教育委員会向けのレポーティング支援、教員向け研修、キャリア支援など、さまざまな切り口でアプローチしています。
僕自身が元教員で、両親も教員です。だからこそ、先生たちがどれほど心を込めて子どもたちに向き合っているかを、身をもって知っています。一方で、忙しさのあまり想いが空回りしてしまったり、すれ違いが生まれてしまったりする場面も少なくありません。そんな先生たちが心から「教員になってよかった」と思える環境をつくることが、LX DESIGNの根底にある想いです。
―ご自身の現場経験が、原動力になっているのですね。
金谷氏 教員の両親を持ち、教員として働く中でずっと「学校が出せる価値とは何か」について考えてきました。一人の教員としてできることには、どうしても限界があります。子どもたちの好奇心に寄り添い、多様な世界を見せてあげたいと思っても、学校という仕組みの中では“安全”と“機会創出”という相反する課題にぶつかる。さらに、「自分一人が新しいことを始めて、和を乱してはいけない」という心理的なブレーキもかかります。
テクノロジーやコミュニティの力を使えば、もっと現場や子どもたちの好奇心をひらき、世の中と繋ぐことができるはず。でも、今の仕組みではそれができない。そのもどかしさに耐えきれず、外側から仕組み自体を変えるために、スタートアップという道を選びました。
富山というフィールドが、挑戦を支えてくれる
―現在は、改めて地元の富山に拠点を置いて活動されていますね。富山で挑戦する魅力はどこにありますか?
金谷氏 富山は最高です!起業を考えている人には、心から勧めたいですね。実は、「複業先生®」の最初の検証を行ったのも、富山の県立高校でした。教育スタートアップは東京に集中しがちですが、富山にはまだ少ない。だからこそ、行政の方々も親身に相談に乗ってくれますし、地元の仲間たちが「複業先生(講師)になりたい」「学校を紹介するよ」と、5年経った今も変わらず支えてくれています。
―T-Startupの支援期間中、どのような展開を考えていますか?
金谷氏 富山県内外の自治体との連携を、さらに強化していきたいですね。教育委員会に限らず、防災、起業家教育、子育て政策など、さまざまな部署の方々と「次世代のために何ができるか」を共創していきたいです。
教員という仕事を、もっと“民主化”する
―最後に、LX DESIGNがこれから目指す未来を教えてください。
金谷氏 日本には約3万5000校の学校がありますが、子どもたちが卒業するまでに、3校に1校は「複業先生®」を活用している。そんな状態を実現したいです。人生のどこかで、必ず複業先生と出会う世界をつくる。それが一つ目の目標です。
もう一つは、教員キャリアの流動性を高めること。「人生で一度は複業先生として教員をやったことがある」と言われるくらい、教員という仕事がもっと民主化されてほしいと思っています。
―教員を多様なキャリアの一つにするということですね。
金谷氏 民間企業から教員へ、教員から社会へ。人が行き来することで、先生という仕事の難しさやすごさが、初めて社会に伝わります。自分にとってフィットする人たちに、より早く出会える。その役割を僕たちが担い、テクノロジーとコミュニティの力で、誰もが自分らしい人生をデザインできる世界をつくる。それを富山から、そして世界へ広げていきたいですね。
今回の取材で印象深かったのは、金谷さんの言葉から伝わってくる、学校の先生への深い敬意と愛情でした。かつて、一人の教員として現場で味わった悔しさは、今や40の自治体、そして数百の学校を動かす原動力へと形を変えています。富山から教育を、そして社会をアップデートするLX DESIGNの挑戦は、まだ始まったばかりです。
「T-Startup Leaders Program 2025」について
T-Startup企業とは、高い成長が見込まれ、富山県内外のイノベーションを牽引する可能性を秘める県内企業です。本プログラムでは事務局を中心とした伴走メンターにより、選定企業の成長目標や課題などを元にプログラム期間内での最適な支援内容が策定され、6ヶ月の期間で急成長に向けた伴走型のハンズオン支援が提供されます。
【T-Startupリンク】
https://t-startup.jp/