2025.03.14 お知らせ 【T-Startupインタビュー】研究成果を社会へ。富山大学発ベンチャーが挑む無菌検査技術のアップデート ーLABTECHS(ラボテクス)株式会社 富山県のスタートアップ支援プログラム「T-Startup」に2年連続で選ばれたLABTECHS株式会社。代表取締役の仁井見英樹さんは、医学研究者としての技術を臨床分野のみならず社会の様々なニーズに活かすため、迅速無菌検査キットを開発し、その事業化に挑んでいます。研究室の枠を超えて起業を決意した理由、そして富山大学発ベンチャーとしての挑戦を伺いました。 仁井見英樹 氏(にいみ・ひでき) LABTECHS株式会社代表取締役 鹿児島大学医学部卒。癌研究会癌研究所生化学部、スウェーデン・ウプサラ大学ルードヴィヒ癌研究所を経て、富山大学に着任。現在、富山大学医学部 臨床分子病態検査学講座 教授、富山大学附属病院 検査・輸血細胞治療部 部長、遺伝子診療部 部長、総合感染症センター 副センター長。2021年9月に富山大学発ベンチャー1号としてLABTECHS社を創業。研究を実用化するため起業を決意 ―本日はよろしくお願いいたします。まず、LABTECHSを創業された経緯について教えてください。 仁井見氏 もともと臨床検査の分野で新しい検査法の研究開発を続けてきました。私の研究のゴールは、研究論文を発表するだけではなく、現場で使われるようになり、社会の役に立つことでした。そんな中、2021年4月に富山大学の兼業規定が改定され、教員も起業できる環境が整ったのです。この機会に臨床検査として開発してきた技術を転用し、世の中の様々なニーズでも使ってもらうことを目指して2021年9月にLABTECHSを創業しました。ー事業内容について、可能な範囲で教えていただけますか?仁井見氏 現在複数のプロジェクトを進めていますが、すでに製造・販売を開始している「迅速無菌検査キット」についてお話しします。医薬品や輸血用の血液など、体内に入るものが無菌であるかどうかの確認は重要です。無菌検査の技術は、製薬や再生医療の分野だけでなく、輸血や細胞治療など、無菌状態を迅速に把握する必要があるさまざまな現場で活用されています。従来の無菌検査は、結果が出るまでに7日から14日ほどかかるのが一般的です。検査を待つ時間が長いほど医療の現場への負担になりますが、私たちが開発した迅速無菌検査キットを使えば、わずか数時間から1日程度(生菌の有無をも確認するかどうかで時間が異なる)で無菌かどうかを判断できるようになります。遺伝子検査で無菌を証明する技術(細菌DNA汚染の無いTaq酵素の開発に依る)は我々が世界で初めて開発しました。元々は患者血液中の細菌の検出と定量を目的に開発した技術です。 「くすりの都」富山だからこそ実現できること ―富山県は製薬業が盛んな地域ですが、医療系の事業も実施するベンチャーにとってどのように魅力を感じていますか? 仁井見氏 「くすりの都」とも呼ばれる富山には、数多くの医薬品関連企業が集まっています。それだけでなく、製薬業界を支援する行政や大学の体制が充実し、相互に協力体制が築かれているのも大きな特徴です。例えば、富山県が運営する「くすりのシリコンバレーTOYAMA創造コンソーシアム」という組織では、医薬品産業の振興を目的として、大学の研究成果の実用化支援を行っています。私たちもこの支援を受け、迅速無菌検査キットのフィージビリティスタディ(実用化に向けた検証試験)を、県内の製薬企業と連携して行うことができました。実際の製薬プロセスの中で、自社の技術がどのように活用できるのかを検討する機会を得られたのは、大変貴重な経験でした。 ―富山大学発のベンチャーであることはどのような強みになっているのでしょうか?仁井見氏 もちろん、富山大学発のベンチャーであることも大きな強みです。大学の認定を受けていることで、行政や県内企業からの支援が手厚く、対外的な信用力の向上にもつながっています。また、通常であれば高額な設備投資が必要な最先端の研究環境が大学内にあり、ベンチャーとしてそれらを活用できるというメリットも、大学発ベンチャーならではだと感じています。医療系の事業においては、臨床各科と連携できることが強みとなります。 大学の教員としての業務と経営を両立するのは大変ですが、それ以上に得られるものが大きいと実感しています。 T-Startupとともに会社の体制を強化 ―T-Startupには2年連続で選定されていますが、昨年と今年でどのような変化がありましたか? 仁井見氏 T-Startup選定1年目は事業の方向性を模索する時期でしたが、2年目の今年は、企業としての事業体制を本格的に整えるフェーズに入りました。 具体的には、富山大学との契約締結、資金調達の戦略策定、人材採用、ラボの立ち上げ、発信の強化などに取り組んできました。当社は富山大学発のベンチャー第一号ということもあり、すべてがゼロからのスタートでわからない点も数多くありましたが、T-Startupの支援の中で専門家のアドバイスを受けながら、収支計画や事業計画をブラッシュアップできたことは当社にとって大きなステップアップとなりました。 また、今年の大きな変化は、社員の採用です。これまで私一人で事業を進めていましたが、現在は研究者2名、マーケティング担当1名を社員として迎えました。また、労務・会計・知財の専門家とも顧問契約し、企業としての基盤が整ってきたなと感じています。 さらに、大学内にある富山市新産業支援センターのインキュベーション・ラボに自社ラボを立ち上げました。研究開発を加速させると共に、製品を製造して安定的に供給するために、自社ラボを持つことは重要な一歩だったと考えています。技術革新は私たち技術系ベンチャーにとって企業の生命線です。大学の研究設備と自社の研究環境を併用しながら、現在の独自技術をブラッシュアップしつつ、新たな技術開発にも取り組んでいきます。 研究を社会に届けるという使命 ―今後の展望について教えてください。 仁井見氏 ここまで、大学や行政、県内企業の皆さんに支えられながら、ようやく事業の基盤が整ってきました。心から感謝しています。 論文を発表して終わりではなく、それを世の中に届け、多くの人の役に立つ形にする。それこそが、本当の意味での研究の価値だと私は考えています。迅速無菌検査キットをはじめ、今後も技術シーズを起点にしたイノベーションを通じて、他にはない独自の価値を提供できる企業を目指していきます。そして健康で活力ある社会に貢献していくことが、私たちの使命だと思っています。 医学研究者としての使命と探究心、そして起業家としての挑戦心を併せ持つ仁井見さん。富山大学発ベンチャー第一号としてゼロからのスタートを切り、様々な支援を受けながら着実に事業を形にしていくその姿勢に、今後のさらなる発展への期待が高まります。 「T-Startup Leaders Program 2024」についてT-Startup企業とは、高い成長が見込まれ、富山県内外のイノベーションを牽引する可能性を秘める県内企業です。本プログラムでは事務局を中心とした伴走メンターにより、選定企業の成長目標や課題などを元にプログラム期間内での最適な支援内容が策定され、6ヶ月の期間で急成長に向けた伴走型のハンズオン支援が提供されます。【T-Startupリンク】https://t-startup.jp/ (2025年3月18日開催)令和6年度 とやまヘルスケアベンチャーマ...