【T-Startupインタビュー】現場の声から生まれた、LINE完結の建設DXー株式会社GENLY(ゲンリー)
富山県主催のスタートアップ支援プログラム「T-Startup」に選定された株式会社GENLY。同社は、ITリテラシーに関係なく、現場の職人が使い慣れたLINEだけで完結する建設・工事業向け現場管理アプリ「GENLY」を提供しています。今回は、大学院在学中に建設現場の課題と向き合い、創業に踏み切った代表の中村拓海さんに、その原点と今後の展望を伺いました。
中村拓海 氏(なかむら・たくみ)
株式会社GENLY代表取締役
愛知県出身。大学・大学院で建設分野の研究に携わる中、建設現場の非効率なアナログ管理に直面。自身のエンジニアリングスキルを活かし課題解決を志す。大学院を中退し2024年に株式会社GENLYを創業。建設業界のDX推進と人手不足の解消を目指す。
目の当たりにした建設現場のリアル
―本日はよろしくお願いいたします。まずは、GENLY創業のきっかけを教えてください。
中村氏 大学で建設系を学んでいたこともあり、在学中に富山県内の建設会社の社長と話す機会があったんです。学生と経営者が交流する食事会で、たまたま同席したその社長から、「勤怠管理をデジタル化したいけれど、職人たちは新しいアプリが苦手で困っている」という切実な悩みを聞きました。この課題を自分なら解決できるかもしれないと感じて、GENLYの前身となるサービスの開発を始めました。
ー実際の現場の管理状況はどのようなものでしたか?
中村氏 現場を見せてもらうと、驚くほど紙と手作業に頼っていたんです。事務員さんがエクセルで日報のテンプレートを作って印刷し、職人さんへ配布。職人さんは手書きで作業内容などを記入し、それを月末に回収する。そして事務員さんが内容をエクセルへ入力し直し、印刷してファイリングする…。あまりにも時間と手間がかかる、典型的なアナログ運用でした。この実態を知ってより強く課題意識を持ち、複数の建設会社へ本格的にヒアリングを進めていきました。
ー現場負担が大きく、効率化が必要な状況ですね。
中村氏 はい。実は、こうした管理フローは今でも多くの現場で当たり前のように行われています。そんな中で、私がLINEアプリの開発経験があることを社長さんに話したところ、「LINEなら従業員も使える」と導入が決まりました。職人さんが普段から使い慣れているLINEをそのまま活用することで、導入ハードルを限りなく低くする。GENLYのコンセプトがここで固まりました。
人とのつながりに支えられた、富山での創業
―愛知県出身の中村さんが、富山で起業しようと思った理由を教えてください。
中村氏 大学進学を機に富山に来て7年でつくってきた人脈に、起業当初すごく助けられたという点が一つあります。
大学進学をきっかけに富山に来てから7年間、少しずつ築いてきた人とのつながりが、起業当初の大きな支えになりました。とくに最初にお世話になったのが、T-Startupのアルムナイ企業でもある株式会社ModelingXさんです。富山大学のすぐそばにオフィスがあって、若くて挑戦したい人たちが集まり、寝食を忘れて作業に没頭するような熱気にあふれた場所でした。起業を決意して相談に行ったところ、「オフィスを自由に使っていいよ」と言ってくださり、そこからどんどん仲間が増えていきました。年齢の近い先輩経営者が、経営やスタートアップのことを本気で教えてくれる環境が身近にあるのは、本当に心強いです。
―起業してみて、「これは経験して良かった」と感じることはありますか?
中村氏 私はもともと開発が好きでエンジニアとしてやってきたのですが、いざ会社をつくると、思っていた以上に事務作業が多くて驚きました。「会社を運営するって、こんなに大変なんだ」と実感しましたね。
さらに、資金繰りの重要性も大きな学びでした。フリーランスの頃には考える必要がなかった“中長期の資金計画”に向き合うようになり、経営者として成長していると感じています。
現場の“使えるDX”をLINEひとつで
―現在のGENLYが具体的にどういったサービスなのか、特徴を教えてください。
中村氏 GENLYは、勤怠管理・日報作成・職人の手配といった現場管理を、すべてLINE上で完結できるアプリです。現場ごとに「誰が・どこで・どれだけ働いたか」を可視化し、収支管理まで一元化できる仕組みを目指しています。
建設DXでは“コスト削減”が話題になりがちですが、GENLYは毎日のダッシュボードで、どの現場が利益を出していて、どこが赤字なのかが一目で分かります。利益率の高い現場の判断や、精度の高い見積もりなど、経営判断の支援まで踏み込める点が大きな特徴です。
―メインターゲットは、どの規模の会社を想定していますか?
中村氏 主に建設業の下請け会社さんを対象としています。従業員1名から利用できますが、特に効率化の効果が大きいのは1~30名規模の企業です。この規模の会社はシステム導入にハードルを感じることが多いため、手に取りやすい価格帯に設定し、まずは気軽に使っていただけるようにしています。
また、外国人職人さんが働く現場も多く、ID・パスワードが不要で使えるLINEを基盤にすることで、“誰でも簡単に使える”ことに徹底的にこだわっています。
―他社の施工管理アプリと比べたとき、GENLYの最大の強みは何ですか?
中村氏 一番の強みは、現場の管理フローがすべてLINEで完結する点です。他社アプリは機能が多すぎて、現場で使われずに終わるケースも少なくありません。GENLYは本当に必要な機能だけに絞り、LINEならではの手軽さで日常的に使っていただける仕組みを提供しています。
T-Startupで検証を進める新機能とは
―今後、機能追加の予定はありますか?
中村氏 はい。今後は、協力会社さんへ“応援要請”を送れる機能を追加する予定です。建設業界では、協力会社間で職人の貸し借り、いわゆる“応援”が頻繁に行われています。これまでは電話やFAXで「この現場に何人欲しい」とやり取りしていましたが、これをLINE上で簡単に、現場地図や駐車場の情報も含めてボタン一つで送信できるようにします。
―今回のT-Startupプログラムには、どのような期待をされていますか?
中村氏 この期間で、応援機能の実証を進めたいと考えています。協力会社同士がGENLYを使って応援要請をやり取りした際、要請を受け取った会社は、GENLYを導入していなくても使える設計にしてあります。そこで便利だと感じてもらうことで、利用が広がっていくという仮説を持っています。
このネットワーク効果をまず北陸で実証し、その成功事例をもとに全国へ展開したいと考えています。
―最後に、今後の展望を教えてください。
中村氏 GENLYは今後、単なる業務効率化のツールではなく、「どの現場が利益を生むのか」を見極め、売上拡大を目指す経営者さんを力強く支えるサービスに進化させたいと考えています。
現在は一人で会社を運営しており、資金・時間・人材といったリソースには限りがあります。もしGENLYの取り組みに興味を持っていただける方がいれば、ぜひ力を貸していただきたいです。一緒に、建設業界をより良くする仕組みをつくっていければ嬉しいです。
「現場に本当に使われるDX」とは何か。その答えを追い続ける姿勢が、GENLYというサービスを確かに前へ押し進めているのだと思います。北陸から生まれる建設業界の変化の芽が、これからどのように広がっていくのか楽しみです。
「T-Startup Leaders Program 2025」について
T-Startup企業とは、高い成長が見込まれ、富山県内外のイノベーションを牽引する可能性を秘める県内企業です。本プログラムでは事務局を中心とした伴走メンターにより、選定企業の成長目標や課題などを元にプログラム期間内での最適な支援内容が策定され、6ヶ月の期間で急成長に向けた伴走型のハンズオン支援が提供されます。
【T-Startupリンク】
https://t-startup.jp/