【T-Startupインタビュー】就活の“絶望”を“希望”に変える。学生と企業を価値観で繋ぐ「AI Talentee」ー株式会社就活ラジオ
富山県発のスタートアップ支援プログラム「T-Startup」に選定された株式会社就活ラジオ。同社は、地方における就職活動の根本的なアップデートに挑んでいます。家業の3代目社長を経て起業した代表取締役社長の碓井一平さんに、その原点となった学生との出会いから、サービスを通じて目指す「はたらくその先に、喜びを」という未来への想いを伺いました。
碓井一平 氏(うすい・いっぺい)
株式会社就活ラジオ代表取締役社長
富山県立山町出身。学生の“社会への絶望”に触れたことを機に、家業の建設会社3代目社長を辞任。2019年にLabore株式会社を創業し、2022年に株式会社就活ラジオを設立。AIマッチング型就活アプリ「AI Talentee」を開発し、就活の在り方そのものをアップデートする挑戦を続けている。
創業の原点は、大学生から届いた“絶望の声”
―本日はよろしくお願いいたします。碓井さんはもともと家業の3代目社長でいらっしゃったんですよね。そこから起業に至った背景を教えてください。
碓井氏 はい。大きな転機になったのは、30歳の時です。母校の大学でキャリア教育の講義をする機会をいただき、久しぶりに大学生と向き合いました。社会で経験したことや、これからは若い世代にチャンスが回ってくることを熱く話したんです。
ところが、講義後に学生から届いた感想に衝撃を受けました。「日本に希望が持てない」「社会に出るくらいなら卒業と同時に消えてしまいたい」。そういった“絶望”が綴られていたんです。僕にはどうしても受け入れられませんでした。彼らの言葉を聞いた以上、「何とかしなくては」と強く使命感が湧いてきたんです。
ー若者のはたらく未来への絶望に、心を突き動かされたのですね。
碓井氏 学生たちが未来を悲観する背景には、社会のリアルが見えていないのではないかと思います。社会人像が、華やかな成功者か、ブラックな労働者という二極化でしか捉えられていない。
僕自身はどちらでもなく「楽しく生きてきた」という感覚があります。周りの多くの大人たちも、なんだかんだ幸せそうに暮らしている。派手じゃなくていいから「こんなふうにちゃんと生きてる大人がいるよ」「安心して社会に出てきていいよ」という、等身大の姿を見せたかったんです。その後会社を辞め、社会と学生をつなぐ仕組みをつくるべく、Labore株式会社を立ち上げました。
コロナ禍で見えた就活の課題
―創業後、どのような一歩を踏み出されたのでしょうか?
碓井氏 まずは「とにかく学生に会わなきゃ始まらない」と思い、学生と会っていろいろな話をしました。繋がった学生たちと一緒に、富山で活躍されている経営者を巻き込んだイベントを企画したり、ゲストハウス「寄処(よすが)」をつくったりと、“学生が社会に触れられる場”をつくることに注力しました。
ところが、立ち上げてすぐコロナ禍に突入し、イベントも全滅。資金繰りも含めてかなり苦しかったです。
―コロナ禍で状況が一変し、苦境に立たされたんですね。
碓井氏 ただ同時に、ビジネスチャンスが訪れました。企業から「頼りにしていた合同説明会がすべて中止になった」と相談があり、急遽オンライン合同説明会を企画しました。すぐに始めたことで最初は物珍しさと話題性で盛り上がりを見せ、順調にスタートしました。しかし、オンラインでの交流には限界があり“マッチング精度の低さ”という課題に直面し、企業も学生も離れていってしまいました。
ここで就活の本質的な課題と向き合うことになります。根本的に、地方の学生は東京と比べて情報量が圧倒的に少ない。学生がネットで集められるのは都会の情報ばかりで、地元には「魅力的な企業がない」と、都会へ出る決意を強めるばかりでした。地方で働くという選択肢が、今の就活構造によって狭められていると感じたのです。
―この気づきが「就活ラジオ」の立ち上げに繋がったと。なぜ“音声”だったのでしょうか。
碓井氏 声はごまかしがきかず、企業の“リアルな声”を届けられると思ったからです。しかし、就活ラジオを立ち上げてからの約3年間は正直、苦悩の連続でした。ラジオだけではダメだとわかってからは、ひたすら新しいアイデアを考えては試す、ダメならピボットするということを繰り返していました。今思い返しても、あの時期が一番辛かったですね。やりたいことはあるのに、やる術もやり方も見いだせていない状況でした。当時、私たちのアイディアを信じてくださった多くのクライアント様には、結局サービスを広げることができなかったことを今でも本当に申し訳なく思います。
既存構造への不信感から生まれた「AI Talentee」
―その苦しい試行錯誤の末に生まれたのが、現在のAIマッチングアプリ「AI Talentee」なんですね。
碓井氏 はい。今リリースしている「AI Talentee」は、まさに3年間の集大成だと思っています。このアプリの思想が固まったのは、ある学生へのヒアリングがきっかけでした。「もし魔法のランプがあるなら、就職活動において何をお願いする?」と尋ねたんです。
学生は「自分のことをすごく理解した上で、自分にとって最良の企業を教えてほしい。既存のサービスは、私が検索すれば企業は出てくるけれど、私のことは知らない。私のことをよく分かっている人が、『あなたにはここが一番いいんじゃない』と言ってくれれば、それが一番納得感が得られる」と答えました。
―学生は「自分にとっての理解者」を求めていたんですね。
碓井氏 結局、多くの学生は自分が本当に何をしたいのかわからない。そして、それを叶えてくれる企業を、検索ベースのサービスでは見つけにくいんです。この「学生の深い自己理解と、それに基づいた納得感のある出会い」を叶えるために動き始めたのが、「AI Talentee」なんです。
―サービスの具体的な特徴を教えてください。
碓井氏 「AI Talentee」は、“価値観重視型”のマッチングアプリです。学生がAIと対話しながら、自分の価値観や強みを深掘りし、それをもとに企業とのマッチングを行います。
最大の特徴は、給与や職種などの“条件”で探せる仕組みを完全に外し、企業名も伏せて紹介することです。徹底して学生の目線に立つこと、情報を透明にすること、そしてお金の論理だけに引っ張られない仕組みをつくること。この3つを軸に設計しました。学生の価値観・適性と企業の文化・思想をAIでマッチングさせることで、都市部の大企業が有利な現状を変え、地方企業が正しく評価される世界をつくりたいと考えています。
T-Startupで見据える未来。富山から、地方の就活を変える
―今回「T-Startup」に選定されました。期待することをお聞かせください。
碓井氏 プロダクトの精度を高めて全国展開を目指す上で、T-Startupの支援はとても大きいと感じています。また、県外のスタートアップや大企業、投資家との接点ができることで、富山の学生と企業の採用を“本気で変える”スピードを加速させたいと思っています。
―最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
碓井氏 私たちは「学生と企業の幸せな出会い」をつくるために、この事業に挑戦しています。地方には、知られていないだけで魅力ある企業がたくさんある。学生には「苦しい就活ではなく、入社後に幸せに働けるための就活」をつくりたい。その実現のために、就活ラジオを必ず大きく育てます。
もし「地方の採用を変えたい」「学生の未来を支えたい」と思う企業や個人の方がいらっしゃいましたら、ぜひ新しい未来を一緒につくっていけると嬉しいです。
創業から6年の苦難を乗り越えて生まれた「AI Talentee」。“使命”という言葉に、碓井さんの揺るぎない覚悟が凝縮されています。富山から地方の就活を変える壮大な試みに期待が膨らみます。
「T-Startup Leaders Program 2025」について
T-Startup企業とは、高い成長が見込まれ、富山県内外のイノベーションを牽引する可能性を秘める県内企業です。本プログラムでは事務局を中心とした伴走メンターにより、選定企業の成長目標や課題などを元にプログラム期間内での最適な支援内容が策定され、6ヶ月の期間で急成長に向けた伴走型のハンズオン支援が提供されます。
【T-Startupリンク】
https://t-startup.jp/